次の1から4までの記述のうち、民法の規定、判例及び下記判決文によれば、正しいものはどれか。
(判決文) 賃貸人は、特別の約定のないかぎり、賃借人から家屋明渡を受けた後に前記の敷金残額を返還すれば足りるものと解すべく、したがつて、家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にたつものではないと解するのが相当であり、このことは、賃貸借の終了原因が解除(解約)による場合であつても異なるところはないと解すべきである。
正答1
解説
正解は1です。
判決文は、敷金返還債務は家屋の明渡しを受けた後に生じるので、明渡債務と敷金返還債務は同時履行の関係に立たないとした判例(最判昭49.9.2)です。
明渡しが先に履行されるべき債務であることを前提に、各肢を判断します。
【選択肢別解説】
1:○ 明渡しが先履行であれば、明渡しの時点では敷金返還請求権はまだ発生していません。
留置権は、物に関して生じた債権が弁済期にあることが要件です(民法295条1項)。
そのため、賃借人が敷金返還請求権を被担保債権として家屋に留置権を取得する余地はありません。
2:× 判例は、両債務は1個の双務契約から生じた対価的債務の関係にはないとしています。
敷金契約は賃貸借契約に付随するものの、別個の契約だからです。
3:× 敷金は、賃貸借終了後、家屋の明渡しまでに生じた債権も担保します。
たとえば明渡しまでの賃料相当損害金も敷金から控除できます(民法622条の2第1項)。
4:× 判例は、同時履行の関係を肯定することは敷金の性質に適合しないとしています。
敷金は明渡しまでの一切の債権を担保するので、明渡し前に返還額は確定しないからです。
【ポイント】
敷金の返還時期は「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」と民法622条の2に明文化されています。
明渡しが先、敷金返還が後という順序を押さえておけば、留置権も同時履行の抗弁も否定されると判断できます。